蜜月は始まらない
「えっちょっ待って柊……おまえ野球に関して以外寡黙っつーか口下手だと思ってたら、彼女のこととなるとそんなしゃべんの……?? マジで愛しちゃってんだな! もっといろいろ聞かせろよ~!」



興奮しきった様子でバシバシ肩を叩かれる。痛い。離れるどころか、ひどくなったよな?

話が違う、という念を込めて左隣の人物に視線を送ると、お手上げとばかりに肩をすくめるジェスチャーをされた。

仕方ないので、自分で対処すべく再度顔を後ろに向ける。



「すみません、今日はもう閉店時間です」



言うが早いか前に向き直った。後方からまだ何か聞こえるけど、知ったことか。

声を押し殺して笑っている尚人さんを恨めしげに見れば、俺の無言の圧力に気がついて「悪い悪い」と軽い調子で言う。



「いやー、ほんと錫也って、真面目だなと思って」

「褒めてますか、それ」

「半分褒めて、半分おもしろがってる」



悪びれもなくあっさり答えるから、つい顔をしかめた。

そんな俺の反応に、尚人さんはまた笑っている。



「拗ねんなよ。まさかおまえに婚約者紹介される日が来るなんて思ってなかったから、これでもよろこんでるんだよ俺」



たぶん、それは本当に本心なんだろう。

イタズラっぽく口角を上げながら、それでも俺に向ける眼差しはやけに優しげで、なんだかむず痒い気分になる。
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