蜜月は始まらない
「それは……そのままの、意味だよ。本当に好きな人がいるなら、私なんかに構ってないで、その人とちゃんと」

「『私なんか』ってなんだよ。どうして華乃はそうやって、自分を卑下するんだ」



こちらの言葉を遮って強い眼差しと口調で詰められ、ビクッと肩が震えた。

そんな私を見て、錫也くんは一瞬頭が冷えたような顔をする。

手は握ったまま、さっきまでより少しだけ私と距離を取り、深く息を吐く。



「……悪い。違うな、まずは、誤解を解かねぇと」

「誤解……?」



オウム返しに疑問符を浮かべると、錫也くんがうなずいた。



「ああ。あの週刊誌の記事は、まったくのデタラメだ」



……え?

言葉を失って目を見開いた私に構わず、彼は話を続ける。



「あのマンションに日比谷さんが住んでて、俺がそこに行ったことは間違いない。けどそれは、あの記事に書かれてたみたいな関係だからじゃなくて……日比谷さんは、本当は宗さんの恋人なんだ。あの夜俺は宗さんに誘われて、飯をご馳走になっただけ」

「え……宗さん、の?」

「ああ。まあ、もちろん世間的には秘密にしてることだけど……」



まだ少し顔をしかめながら答える錫也くんは、こんなに近くで見ていても嘘を言っているようには思えない。

さらに、彼は言葉を重ねる。
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