蜜月は始まらない
名前も学年も知らない女の子。
そのコに再び遭遇したのは、あの春の日から2ヶ月も経ってからだ。

同じ2年の教室がある階で、たまたま友達らしき女子たちと歩いているのを見かけた。

ほとんど敬語で話していた姿からなんとなく年下かもしれないと思っていたけれど、どうやら同学年だったらしい。

それでもこれだけ出会わなかったとなると、きっとクラスが離れているのだろう。

遭遇、といっても、向こうは友達との会話に夢中で俺のことには気づいていないようだった。
一方的に、俺が彼女を見つけただけだ。

その後も何度か校内で彼女を見かけて、初めて目が合ったときは軽く会釈をされた……ような気がする。

春が終わり、夏が来て、秋へと変わり、冬を迎えた。

そうしてまた季節が春になった頃、3年生への進級と同時にあったクラス替えで、俺たちはまさかの同じクラスになった。

しかも、出席番号の関係で隣の席。なんというめぐり合わせだ。

けれど俺と彼女との間に、去年の春にあった例の出来事の話題は一度も上ることはなかった。

彼女があの日のことをまったく口にしないから、俺の方もなんとなく話を振れずにいたのだ。

もしかしたら……やはり以前された会釈は気のせいで、彼女はあのときの男子生徒が俺だとわかっていないのかもしれない。

簡単なことだ。俺にとっては鮮烈だったあの出会いが、彼女にとってはそうでなかっただけ。

そう思い至ったとき、心の中になんともいえないモヤモヤした感情がわき起こった。

だがしかし、当時の俺は呆れるほど自分の気持ちに鈍感で。

他の女子たちとは明らかに違う、花倉華乃に対してだけ抱いていた感情の正体に気がつかないまま……高校3年生の1年間を単なるクラスメイトとして過ごし、そして卒業してしまった。
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