蜜月は始まらない
俺が“それ”を自覚したのは、大学生になって押しの強い年上の彼女ができてから。

1学年上の生徒との合同ゼミで知り合い、なぜか気に入られた俺はグイグイ距離を詰めてくるその人を適当にあしらっていたつもりだったが、なんだかよくわからないまま気づけば付き合うことになっていた。

この時点でも無責任すぎてひどいが、さらに自分でも最低だと思うのはその後だ。

たとえば、隣を歩く“カノジョ”のパーマをあてて明るく染めた長い髪を見たとき。

躊躇いなく俺の腕に触れるその指先が、人工の色や飾りで鮮やかに彩られているのに気づいたとき。

ベッドの上で、甘ったるく俺を誘う声を聞いたとき。

俺はカノジョと一緒にいると、なぜかことあるごとに高校のクラスメイトだった女の子のことを思い出しては、違いを羅列し『もしあのコだったら』なんて馬鹿な空想を無意識にしていた。



『錫也、別れよ。あんた全然、私のこと見てくれてなかったでしょ』



そんな俺の不誠実さは当然カノジョにも透けて見えていたようで、数ヶ月後あっさりと関係の解消を言い渡される。

否定もせず引き止めるでもなく、ただ『ごめん』と言った俺に初めてカノジョが見せた悲しげな微笑みには、さすがに罪悪感を覚えたものだ。



『他に好きなコいるのに私と付き合うとか、言っとくけどそれ、全然優しさとかじゃないからね。ま、ゴリゴリに押しまくった私が言えたことじゃないけど~』

『……は?』
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