片恋スクランブル

「こいつがカレー以外のモノを食うのは、接待とカレーを置いてない店に間違えて入った時位だな」

御園生さんが呆れた風に言う。

「カレー好きなんだ……って言うか、他を選ぶのが面倒で」

頭をかきながら、八木さんは笑う。

「でも、私も好きですよカレー。色んな具材が使えるし、種類も多いんですよね」

「だよね!具材が変われば、味も変わるし」

「あー、今度はカレー談議か」

「なんだよーもっと盛り上がろうよ~!」

二人の掛け合いがおかしくて、私は始終笑いっぱなしだった。

よかったな。誘ってもらって。いつも遠くで見ていた八木さんの笑顔をこんな近くで見られるなんて。

……好きだなぁ、やっぱり。

彼の笑顔を見てると、温かい気持ちになれる。






「じゃ、俺はここで」

片付けたい仕事があるからと、八木さんは食事の後、会社に戻っていった。

「……よかったな。ちゃんとアイツの視界に入ってたじゃん」

隣にたつ、御園生さんの言葉に自然と顔が緩む。

「……今日は誘ってくださってありがとうございます」

「べつに……」

八木さんが帰ってからの、御園生さんはなんとなく不機嫌に見えた。

「御園生さんって、八木さんと親しいんですね」

問い掛けた私をチラリと見る。

「……大学の同期。たまに連絡してたから」

「そうなんですか。結構長い付き合いなんですね」

「まぁな」

一言喋るたびに、沈黙が入る。

今までは、御園生さんがずっと話しかけてくれていたのだと、気付く。

でも今は沈黙が長い。

……やっぱりなにか不機嫌に見える。





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