デキる女を脱ぎ捨てさせて

 そもそも……。

「倉林支社長には婚約者がいますし、それに、私に元彼のところへ行くようにって倉林支社長が。」

 自分で言って胸が痛くなって下を向いた。
 その頭上に松嶋工場長の呆れた言葉がかけられた。

「なんだそりゃ。」

 しかも笑っている。

「なんだそりゃじゃないですよ!
 笑わないでください!」

 そうだ。
 松嶋工場長はこういう人だった。

 頼り甲斐のある上司だけど冗談や悪戯が過ぎる人!!

「だってなぁ。
 そこに西村の気持ちと倉の気持ちがどこにもないぞ。
 周りのやつのことはどうだっていいだろ。
 お互いの気持ちはどうなんだよ。」

「お互いの……気持ち…。」

 一番厄介なのは、散々からかったりするくせに最後は考えさせられるような言葉を残して去って行ってしまうこと。

 今回も松嶋工場長は私を悩ますような言葉を残して「遅くなる前に帰れよ!ま、倉がそのうち顔を出すだろ」と帰って行った。

 その数分後、本当に倉林支社長が出張から戻ってきたものだから、松嶋工場長はエスパーなのかもしれない。
< 132 / 214 >

この作品をシェア

pagetop