御曹司は眠り姫に愛を囁く
そして、父は『ビジネスジャーナル』を見せる。

「この人がお前の実の父親だ」


『ビジネスジャーナル』の巻頭を飾る一人の実業家。

『光洋エンジニアリング株式会社』
代表取締役・柘植征介(ツゲセイスケ)

白髪交じりの髪を後ろに撫でつけるようにセットし、細身の紺の三つ揃いスーツに身を包んだダンディな雰囲気を醸し出す男性。

「妹の真澄と交際していた当時はエンジニアとして、第一線で活躍していた。
真澄は事務員として、『光洋』で働いていた。しかし、彼は御曹司で、次期後継者。
二人は泣く泣く引き離された。
既にお前を妊娠していた真澄は一人でお前を産んで、シングルマザーの道を選んだ」


私の実の父は御曹司。
二人が周囲に反対を押し切って、結婚していれば、私は令嬢だったんだ。

私は『ビジネスジャーナル』を手に取って、父の顔を凝視した。


「その柘植社長は1年前に結婚したらしいが、それまではずっと独身だったようだ。
社長はずっと真澄のコトが忘れられなかったと言っていた。
そして、ぜひ、お前に会いたいと向こうから、打診してきた。どうだ?凛音。
会ってくれるか?」

目の前に座っている私の両親は本当の両親でなかった。
その事実すら、受け止められていないのに、実の父に会えと言われても、心の整理が追い付かない。

「急な話だし、今はまだ・・・無理よ」

「そうだな…今まで何も話してこなかったからな・・・」

「凛音のキモチはよくわかる」





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