御曹司は眠り姫に愛を囁く
中谷部長の内部告発で、俺は会社の粉飾決済を知ってしまった。

「後は独自で調べる」と中谷部長に告げ、彼に「後は一族で話をつける。一切、この件には関わるな」と忠告した。
近年、度々取沙汰されていた一部上場企業の粉飾決済。

まさか、わが社まで・・・
俺は盆休みを返上し、東京支社の自分の支社室で、独自にわが社の愚行を調べ上げた。

調べ上げたデータを全て見て、暗い淵に引きずり込まれるような虚脱感に襲われる。
自社ブランドの高級家具の業績は良くなく、何度も水増しした形跡があった。
盆明け、俺は横浜の本社に足を運んで、社長である父と対峙した。

「気づいてしまったか・・・さすがは俺の後継者だな・・・」


父はソファに背中を預けて、足を組みかえて涼しげに笑い、俺を褒めた。
不正を犯し、罪悪感が微塵もない父に俺は激怒する。

「笑いゴトではありませんよ!父さん」

「・・・世間にはまだ、公表されていない」

「公表されていないのをいいコトに続けるつもりですか?」

「続けるつもりはない・・・消費が低迷している中、家具は売れない。椎名家のブランドを守る為、不正が発覚する前に、家具メーカーとしての事業は縮小し、新たな新規事業を始める」

「それは俺が世間に公表しない前提でしょ?」

「まさか…瑛お前はそんな愚かなコトはしないと父は信じているが・・・
公表するつもりか?」

「それは・・・」
正直、迷っていた。
世間に『シーナ』の不正を公表すれば、横浜の名家『椎名家』のブランドも間違えなく失墜する。
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