御曹司は眠り姫に愛を囁く
ジュリエットの娘
九月・・・
街のアスファルトに照り付ける残暑の光はまだまだ厳しい。

仕事を終え、私は実の父親『光洋エンジニアリング』の柘植社長に会う為、彼が迎えによこした黒塗りのハイヤーで『ドラゴンホテル東京・ベイ』に向かう。

湾岸線から見える東京の夜景は遠ざかり、東京と劣らぬ眩い光に包まれたベイサイドへと入って来た。

運転手を務める池口さんは初老の男性で、柘植社長の秘書らしい。

「社長は凛音様にお会いできるコトを心待ちにしておりました」

凛音様と呼ばれ、池口さんから見れば、私は柘植社長の令嬢なんだと再認識した。

バックには父から貰った母が赤ちゃんの私を抱っこする写真を忍ばせていた。


ハイヤーを巨大な地下駐車場に停め、池口さんの案内でホテルの正面玄関に続くエレベーターへと乗り込んだ。

「貴方は大変、母親である真澄さんに似ていらしゃる」

「池口さんは私の母をご存知なんですか?」

「共に同じ部署で働いていましたから・・・」

池口さんは母の同僚だった人。

「母はどんな人でしたか?」

「仕事が出来て、非常に優しくて明るい方でした・・・。社長もそんな真澄さんの人柄に惚れたんだと思います」

でも、二人は結婚出来なかったーーー・・・





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