御曹司は眠り姫に愛を囁く
副社長は稜さんが私を紹介した時も、彼の目を盗み、『何かあれば、俺に相談して』とプライベートの連絡先を教えてくれた。

私も社内の噂を訊き、稜さんは女癖の悪い男だと自覚していた。

彼の兄とは言え、わが社の副社長で次期社長と言われる人。

そんな人に気軽には相談出来ず、一度も連絡しないまま、スマホのアドレス帳に眠っていた。


「副社長が謝るコトではないと思います」

「稜自身が謝るコトなんだけど・・・こんないい子を傷つけて・・・アイツも罪深いヤツだ。
女に刺されても、仕方がない男だよ」

「それは言い過ぎだと思いますけど・・・」

「そう?意外と俺、毒舌だったりするから・・・」

副社長は悪戯っぽく笑い、ペットボトルのお茶を口に含んだ。


私は一人娘で、お兄ちゃんが居れば、こんな風に面倒見てくれて、あれこれと世話を焼いてくれたのかもしれない。


「ここだけの話、母さんは3人目は女の子が欲しかったらしいよ。でも、生まれて来たのはまたしても男で・・・
三人の育児で、てんやわんやだった母さんは四人目諦めたらしいよ・・・」

「へぇー・・・私は一人娘だから・・・兄弟が居る子が羨ましかったです」

「一人娘か・・・じゃ凄く大切されているんだね・・・」

副社長がテーブルにおいたスマホが鳴り響く。

「早く食べないと・・・」

副社長は肩でスマホを挟んで、通話をしながら器用にちくわの磯部揚げを口に運ぶ。

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