御曹司は眠り姫に愛を囁く
「ありがとう、凛音」

朝食を終え、彼は私を玄関先まで見送ってくれた。

「君の見合い相手、いい人だったら、いいのにね」

「瑛さんのお見合い相手もいい方だといいですね」

私は同じ言葉を瑛さんに掛ける。
瑛さんは私をギュッとハグする。

「瑛さん・・・」

「君以上に愛せる人はこの先、現れないと思うよ」

「そんなコトは言わないでください。
お見合い相手が可哀想ですよ」

「恋愛と結婚は別物だと誰かが言ってたけど…その通りだね」

「瑛さん」

彼の腕の中で彼の言葉を繰り返す。
恋愛と結婚は別。
私達は恋愛すらできていない気がする。
全てが遅かった。
遠回りし過ぎてしまい、折角心が重なり合ったが、二人で居られる時間がなかった。
彼は私の髪を優しく撫で、ハグを止める。

「俺は凛音以上にまだ、見ぬお見合い相手を愛する。だから、君もそうして・・・そうすれば、お互いのコトは忘れられると思うから」

「はい」
瑛さんは忘れなければならない相手。彼の甘い囁きは夢の中で訊いた言葉。


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