御曹司は眠り姫に愛を囁く
「あの…副社長、お話があります」

「いいけど・・・」

「ここでは言えない話で・・・」

副社長は私を使用されていない会議室に案内した。

「話って何?」

「私・・・やっぱり…貴方に手料理はご馳走できません」

「貴崎…さん?」

「すいません・・・」

副社長は全く事情が呑み込めていないのか瞳に戸惑いの色を見せる。


「急にどうしたの?」


「・・・私・・・『シーナ』を退職しようと思います」


ここに居ても、毎日稜さんと顔を合わせる。
優しい副社長に甘えてしまい、迷惑を掛けてしまう。

周囲に言われもない噂を流され、これ以上ここで働いていても、自分の立場が悪くなる一方。


「本気なの?」

「はい」

私は真っすぐに副社長を見つめて、返事した。

副社長は私の真剣な瞳に決意のほどを理解した。

「そっか・・・稜のコトが忘れられないんだね・・・」

副社長は切れ長の瞳を伏せて、何も言わなかった。

「いいよ。分かった。正式に上司である小座間部長に退職届を提出してくれ。貴崎さん」

「わかりました」
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