冬の星は君ににている
第一章

冬の一夜

 12月。駅のホーム。
 ヒンヤリとした空気が、頬を叩いて痛む。
 手袋をはめていない手を見てみると、指先が真っ赤になっていた。
 手袋をして来ればよかったと後悔しながらも、両手を合わせて思いっきりこすった。
 それでから両手に柔らかい息を吹きかける。
 温もりは直ぐに消えた。
 また同じことをして、繰り返し繰り返しして、温度を保つ。
 そうしているうちに、2つの明かりが、こっちへ近付いてきた。
 明かりはさんさんと降る白い雪を照らしながら、段々大きくなってゆく。
 2つの明かりはホームへ滑ってきて、ホームの光によって姿を現した。
 水色のラインが入った電車。
 西方面へ向かう電車だった。
 俺の自宅はここから東へ向かっていくとあるから、次の東方面の電車に乗る。つもりだった。
 でも、今日こそは行こうと思った。
 "あの場所"へ。
 今日だからこそ、行こうと思った。
 スーっと、電車のドアが開く。
 俺は、迷いなくその電車へ足を踏み込んだ。
 [ドアが閉まります。ご注意下さい]というアナウンスと共に、ドアは音を立て閉まった。
 それから数秒後、電車はガタンと揺れて、動きはじめた。
 電車の中は帰宅ラッシュのせいか、満員で、俺は手すりを掴んだ。
 それでも足場は不安定で、ゆらゆら揺れる。
 人混みにイライラしながらも、目の前を見てみる。
 電車の窓。
 そこには、スーツ姿の自分が映っていた。
 無表情で、何処にでもいそうなサラリーマン。
 その向こう側には、暗闇に包まれた町が広がっていた。
 ビルの明かりが、ポツポツと並んでいる。
 同じような夜の風景が、右から左へと通りすぎていく。
 雪は、ポツポツと電車の窓に当たっては、ジワリと溶けていく。
 都会には、数えきれない程の光の粒が、地面にある。
 でも、その美しい光たちは、窓の真ん中より下ら辺で途絶えていて、そこから上は薄暗く、光の粒は見られなかった。
 "あの場所"とはまるで反対だと思った。
 そうか。今俺は、こことは異なった場所へ向かっているのだ。
 
ガタン、ガタンガタン

 電車に揺られながら、俺はふと、昔のことを思い出した。
 思い出のフィルムが回り出して、鮮明によみがえってくる。
 あの頃。まだ、俺が自分のことを僕と言っていた時。
 高校生の冬。
 君がいた冬。
 君が―――エリンがいた日々・・・

 

 


 
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