名取くん、気付いてないんですか?
名取くん、気付いてるんですか?


 黒板の日付を見て、心が躍るのはどうしてだろう。


 答えは、ひとつしかない!



「みんなー! 七月と言えばなにがあるでしょうー!」


「夏休み~!」


「夏休みでござるー!」


「これは夏休みしかないな」


「期末テストだね」


「あ、テストかー」



 おい、五番目にしゃべったやつ、もとい相澤、後で体育館裏に来い。じっくりしめてやるよ。



「聡、後で体育館裏に来い」


「えーやだよ」



 げっ、和久津くんと思考が被ってしまった……。そして相澤、おまえに拒否権はねぇ。


 はああ、相澤のせいで中間のときの記憶がよみがえる……。徹夜の日々……赤点回避に勤しむ日々……返ってきた点数は平均点……親にがっかりされる日々……。


 いったい平均点の何が悪いのか! 赤点じゃないだけましだよー!


 ……あっ。


 葵ちゃんと和久津くんが頭を抱えている――!? きっと二人も相澤のせいで悪夢を思い出してしまったのだろう。


 そう、二人は赤点ギリギリ組。運動にパラメーターを全振りしてしまっている問題児なのだ……。



「数学……っ! この世に数学さえなければよかったんでござる……っ!」


「英語だ……。英語さえなければ……。デリートデリート……デリートイングリッシュ……」



 この通り、各々の苦手科目にすっかり消沈しきっている。


 葵ちゃんは一応、授業は聞いてる風なんだけどなぁ。和久津くんはまぁ……横で見ててもよくわかるよ。バレない程度にひっそりと寝てるね。



「えっ、このままじゃ夏休み、遊べないでござる……!? ……ちらっ」


「う、嘘だろ……!? ……ちらっ」



 そして、ちらちらと二人はわたしの方を見てきていた。


 えっと、どうしろと……? そもそもわたし、そんなに頭は良くないし、たぶん教わるなら……。


 わたしが相澤くんに目線を向けると、二人も続いて真似をする。


 相澤くんは深くため息を吐き、にっこりと笑った。



「じゃあ……勉強会、しようか」


「相澤殿~~!」

「聡~~!」



 二人は喜ぶ、けど……。


 嘘でしょ……。


 もしかして、気付いてないの?


 明らかに今の相澤くんの笑みは、容赦しないって目だったんだけど……!?

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