戦乱恋譚
「ねぇ、伊織。」
私は、ふと彼の名を呼んだ。ふいっ、とこちらを向く彼に、私は尋ねる。
「そういえば、本当に霊力を返さなくてもいいの?…この力は、お父さんから受け継いだ、大切なものでしょう?」
「…!」
すると、伊織はくすり、と微笑んだ。穏やかな顔をした彼は、優しい口調で答える。
「心配ないよ。派閥争いに決着がついた今、華が俺の側にいてくれれば、何の不自由もないんだから。」
彼はすっ、と私に近づいた。わずかに熱を宿した瞳に、どきん、とする。
そして、伊織は低く甘い声で囁いた。
「…それに、もしも近い将来、俺のもつ神城の血と華の霊力を持った子どもが生まれれば、すべて元に戻るだろ?」
「!」
「……嫌?」
彼は、意地悪だ。私の答えが分かっていて、そう尋ねるのだから。
「…嫌なわけないよ。」