戦乱恋譚
…だめだ。彼を酔わせてはいけない。
その瞳に見つめられて、その腕に囚われたら
“おちてしまう”。
離れることなんて、もう出来ない。
抱き込まれるようにして、距離が無くなった。そのまま仰向けに倒れ込んだ伊織に体を預ける。後頭部に回された手が、ゆっくり私を引き寄せ、口づけられた。
キスの合間に、ねだるような甘い声が聞こえる。
「…ん…っ…。…ね…、華…もうちょっと、一緒に夜更かししよ…?」
「…っ…」
ずるい。ずるすぎる。
こんな誘い方、断れるわけない。
優しげながらも、妖麗な瞳。ぼそり、と囁かれた吐息は熱かった。
可愛く甘えてきたと思ったら、強引に私を翻弄する。いつもの優しい笑みに隠された“男”の顔に、ぞくり、とした。
…しかし、皆がお酒で酔いつぶれて寝ているからとはいえ、屋敷に帰ってきたその夜から離れで一夜を過ごすのは、少し…いや、かなり恥ずかしい。
…おそらく、完璧超人でしっかり者の伊織でも、明日は寝坊する。翌日、屋敷の人が伊織を起こしにここに来たとしたら…
「…ん、待って。伊織…」
「…っ、だめ…?」
「だ、だめじゃないけど……!」
伊織は、ちゅ…、と額に口付けた。すっ、と離れた彼は、私の心中を察したように小さく呟く。
「…おあずけかぁ。…俺、華には弱いもんな…」
しつけのよく出来たわんこのように、しゅん、とする伊織。
大事にされてる。
ただ、それだけで嬉しかった。