戦乱恋譚
それは、月派十三代目当主、綾人だった。とっさに身構える私と虎太くん。しかし、綾人はいつもと様子が違う。
「警戒するな。今日は顕現録を狙って来たわけじゃない。…俺は、お前と話をしに……」
(え…?)
と、彼がそこまで言いかけた瞬間。綾人は、くしゅん!と、くしゃみをした。
本当に丸腰で来たような彼に目を丸くした私は、伊織のために持ってきた傘を彼に渡さざるを得なかった。
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「…この前は、すまない。佐助を庇ってくれたあんたに、礼を言っていなかった。」
近くの神社に向かった私たちは、軒下に身を寄せて並んだ。
そう切り出した彼に、私はおずおずと尋ねる。
「…まさか、それをいうために陽派の領地に?」
「あぁ。会って話そうと思ったんだが、よく考えれば、月派の俺が屋敷に入れるわけがなくてな。…どうしようか悩んでいたときに雨に降られて…丁度あんたが通りかかってくれたんだ。」
この人は、天然なのか。月派の当主である綾人が、陽派の本拠地である神城家に来たら、間違いなく使用人たちに門前払いされるだろう。
いつものような敵を睨み殺す冷たい瞳をしていない“素”の彼は、幼馴染みというだけあって、少し伊織に雰囲気が似ているようだ。