戦乱恋譚


「…綾人は、伊織と一緒に陰陽師の修行を受けていたんでしょう?」


「!」


「伊織から聞いたの。綾人は元々、陽派の使用人だった、って。」


すると、綾人はわずかに視線を下げて静かに呟く。


「もう、随分昔の話だ。…孤児だった俺は、伊織の父親に拾われて、屋敷で使用人として住まわせてもらっていた。生まれつきわずかながらに霊力を持っていた俺は、伊織には及ばなかったが、一緒に机を並べて、陰陽師としての知識を学んでいたんだ。」


っ、と、綾人が言葉を詰まらせた。碧眼の輝きが、徐々に弱々しくなる。


「…そんなある日、当時、月派の当主だった宗一郎が俺の前に現れてな。俺を養子にすると言って来たんだ。…もちろん、伊織の父親は反発した。だが、俺は陽派の血も持たない厄介者。ずっと神城家に甘えさせてもらうわけにはいかなかった。…だから、俺は佐助だけを連れて、月派の元に行ったんだ。」


綾人の声からは、感情が読み取れなかった。ただ、淡々と語るその過去が綾人にとって辛い日々の始まりだったのかと思うと、胸が痛む。

境内で見た先代からの綾人の扱われ方は、少し見ただけでも酷いものだった。養子として大切にされてきたわけじゃないということが、すぐにわかったからだ。

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