神様には成れない。
「淵くん……」
顔を上げて視界の端で彼を捉えた瞬間、反射的にまた俯いてしまう。
「こんばんはーー、瀬戸ちゃんの彼氏さん」
そんな私を余所に、莉子ちゃんはいつもの調子で彼に声を掛けながら跳ねるように立ち上がる。
「えぇっと、中島さん?だっけ?」
「あ、覚えててくれたの嬉しい。佐伯くんにはお世話になってまーす。中島莉子です」
「何で佐伯……あ、あー。最近瀬戸さんの友達と仲良くなったって言ってたけどそう言う……」
「そうそう。ま、それはそれとして、私はもう帰るから瀬戸ちゃんのことよろしくね」
会話だけを耳で聴いていて、思わず「え」と小さく声を上げれば、莉子ちゃんの背中越しから彼と目が合ってしまう。
そうしてまた思わず視線を逸らして、莉子ちゃんの手に手を伸ばす。
「んふふ、瀬戸ちゃんは私の事が好きだなぁ」
私の方に振り返りながらそんな茶化しを入れ、やんわりと手を押し返される。
「第三者が口出しても良い事は無いんだよ。でも、まぁ、」
にぃっと笑って見せたかと思えば、また彼の方を振り返って一歩彼に近づく。
「私は中立気取ってるけど、一言だけ言わせてもらうね。――男だったらハッキリしろよ。淵くん」
「……」
どこか喧嘩を吹っ掛けるような言い方。
それでも莉子ちゃんはいつもの軽い足取りで帰っていってしまった。