Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 「木ノ下。ちょっといいか?」

 ミーティングが終わってメンバーが各々の担当箇所に別れた後、雨宮に声を掛けられた。

 「はい、なんでしょう。」

 「今度のイベントの件なんだが、」

 今月下旬に図書館の大会議室を使って、地元絵本作家のトークイベントが行われることになっていて、そのチームのリーダーを雨宮が務め、千紗子も担当メンバーに選ばれていた。

 「当日、来場者に配布する栞なのだが、デザインの出来上がりを確認したいのだが見せてもらえるか?」

 「はい。」

 トークイベントの時の来場者に、記念としてその絵本作家の絵本の絵を使った栞を配るになっている。
 チーム全員で作成に当たることになっているけれど、千紗子はそのデザインの原案の担当を任されていた。
 まだ司書としては出来ることの少ない千紗子にとって、小さな仕事でも、自分に任されたことが純粋に嬉しかった。

 せっかく任されたからには、納得のいくものを作りたくて、昨日の勤務後に自宅に持ち帰って、そのデザインの仕上げに遅くまで没頭していた。

 自宅のパソコンから保存したUSBを出そうと、カバンの中に手を入れた。

 「え、……あれ?」

 「どうした?」

 雨宮が千紗子の鞄へと視線を移す。

 鞄の中に手を入れてゴソゴソと漁るけれど、千紗子の目当てのものは見付からない。

 「す、すみません。」
 
 千紗子は慌てて雨宮に謝った。

 「自宅にUSBを忘れてきてしまって……申し訳ありません。」
 
 頭を深く下げて上司に自分のミスを報告する。

 「いや、俺も前もって言っておかなかったからな。明後日にはチーム皆で制作作業に入ることになっているから、今日中にデザイン案を確認をしておこうと思ったのだけど…」

 明日は木曜日―図書館は休館日だ。

 明後日から作業を開始することはチーム内での共通予定なので、その前に、と千紗子は原案作りに頑張ったのだ。

 もちろん事前に上司のチェックが入ることも分かり切ったことだった。
 
 (それなのに、肝心なUSBを家に忘れてくるなんて!!)

 痛恨のミスに背筋が寒くなる。
 自分が情けなくなって、申し訳なくて頭が上げられない。
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