Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
 言い切った途端、頭からシューっと空気が抜けるみたいに、千紗子の怒りも収まっていく。
 
 本当はこんな風に怒りを態度に出したり、言葉で気持ちを説明するのが苦手だ。
 口に出すのは勇気が要ったけれど、結果的に言葉に出したことで自分の感情が落ち着いて行くのを千紗子は感じていた。

 「…ほんと、君って子は。」

 一人スッキリとした気持ちでいる千紗子の頭の上から、呆れたような声が降ってきた。

 (あ。やだ。勝手に自己完結して、雨宮さんは困っているかも。)

 慌てて次の言葉を探していると、突然千紗子の体が温かいものに包まれた。

 (え……)

 千紗子は訳が分からず、目を見開いて固まった。
 自分を覆うように、雨宮に抱きしめられているからだ。

 「君って子は…そんな可愛いことを言って、俺を試してるのか?」

 (えぇっ!どうして、私何も可愛いことなんて、)

 「俺のことを心配してくれたんだろ?それで怒るなんて、千紗子は優しい。」

 (優しくなんて、…)

 「優しいよ。千紗子は優しい。」

 雨宮の手が、千紗子の黒髪をスルスルと撫でる。頭から背中へ、幾度も優しく撫でられていくうちに、千紗子の緊張が少しほぐれていく。

 「でも、帰るなんて言わないでくれ。朝食と弁当を作ってくれるんだろう?楽しみにしてるんだからな。」
 
 耳をくすぐるバリトンボイスが甘い。
 柔らかな灯が心の隅を照らすように、千紗子の胸の内側がぼうっと温かくなっていく。
 
 雨宮の腕の中で、千紗子は小さく頷いた。
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