Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
 「じゃあ、ほらもう、おやすみ。ゆっくり寝て明日もお互い頑張ろう。」

 幼子に諭すようにゆっくりとそう言いながら、雨宮は千紗子の髪をもう二三度撫でる。
 
 「ベッドで寝てください……」

 「…千紗子、君をソファーで寝かせられないって何度も、」

 「私もベッドで寝ます、だから雨宮さんも………」

 言葉の最後の方が小さくすぼんでしまう。
 千紗子は雨宮の腕の中で、息を詰めてじっとしていた。

 髪を撫でていた雨宮の手が、千紗子の背中で止まったままだ。

 (どうしよう……、聞こえなかった?それとも、嫌だって思った?それとも…。嗚呼どうしよう!でも、もう一度言うなんて出来そうにない…)

 グルグルと思考が回って、千紗子の背中に冷たい汗が流れる。

 「それはどういう意味?」

 低く問う声が上から聞こえる。その声は、硬い。

 「どういう、いみ……」

 「ああ。一緒のベッドで寝ようと言ったんだよな?」

 「……はい。」

 「『一緒に寝る』ってどういう意味で言ってる?」

 「………」

 「千紗子を抱いていい、ってことか?」

 「っ!!ち、違いますっ!」

 反射的に雨宮を振り仰いだ。
 射抜くような瞳で千紗子を見下ろす雨宮と目が合った。

 千紗子は大きな瞳がこぼれ落ちそうなくらい開いて、動きを止めた。

 獰猛な肉食獣の前足に押さえつけられて、大きな爪が体に食い込んで動けない小さな獲物。少しでも目を逸らせば、一瞬でその体を喰いちぎられてしまう。
 
 百獣の王さながらの雨宮の瞳に、千紗子はその場に縫い付けられた。
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