Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
それからしばらくの間、ポツリポツリと他愛無い話をした。
 
 雨宮のマンションの下にあるブランジェリーのお勧めのパンのこと、近所のお店にいる猫の話、学生の時の変わった教授の話。
 どの話も他愛無いことばかりで、仕事の話など一つもない。
 時間を忘れるくらいゆったりとした口調で語られ、千紗子は次第に体から力が抜けていった。
 後ろから聞こえるバリトンボイスにが心地良く耳に響き、千紗子はとうとう眠気に身を任せて瞼を閉じた。

 「千紗子……寝たのか。」

 小さく千紗子の名前を呼んで、雨宮は彼女が眠ったことを確かめた。

 背中から抱えるように抱く千紗子の肩が規則正しく上下している。

 (ちゃんと眠ってくれて良かった。)

 雨宮は千紗子の頭に顔を寄せて、その後頭部に唇を落とす。そして小一時間ほど前の、彼女の必死な顔を思い浮かべた。
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