Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
(俺が『自分のことを適当に扱うのが、嫌』か…)
そんなこと、これまで付き合ってきたどの女性にも言われたことはなかった。
大抵は、相手の要望に合わせてきたから、『優しい』と言われることはあっても『適当』と言われたことはない。
控えめで可憐な千紗子から発せられる思いも寄らない台詞に、雨宮はカウンターパンチをもろに喰らってノックアウトする寸前だった。それくらい千紗子の意外な言動は雨宮の心を揺さぶるのだ。
そもそも千紗子は、雨宮が帰宅してからどれだけ理性を総動員して自分の欲望を押さえているのか知らない。
夕飯の片付けの時、自分のすぐ側で小さく笑う千紗子の体を抱きしめたい衝動を抑えるのに必死だったことなど、千紗子には考えも及ばないだろう。
(俺のうちのキッチンで笑う千紗子なんて夢の中みたいだったな。本当に夢の中だったらその場で押し倒してるけどな。)
彼女の笑顔を曇らせたくない一心で、湧き上がる劣情を必死に抑え込んだのだ。
(でも、あれは反則だろ…やっぱり千紗子は小悪魔だな。しかも無自覚なだけたちが悪い。)
雨宮は「はぁっ」と小さくため息を漏らす。
千紗子の極めつけの一言を思い出したからだ。
千紗子の思わぬ誘いは、本人に他意はないと分かっていても、一瞬我を忘れるほどの衝撃を雨宮にもたらした。
(一緒のベッドに誘うなんて、他の男だったら食われてるぞ。)
心の中で軽くぼやくけれど、そのおかげでこうして千紗子を抱きしめていられることを思うと、結果として悪くなかったとも思えてくる。
すやすやと良く眠る千紗子の体をそっと上向きに変える。
暗闇に慣れた目に、彼女の眠る顔がうっすらと見える。その顔は『やすらか』とは言えない。
せっかく眠った千紗子を起こさないように、そっと優しく彼女の頬を撫でる。
(我慢の代償に、これくらいは許せ。)
そう心で呟いた雨宮は、羽根のように軽く、千紗子の唇に自分のを合わせた。
「おやすみ、千紗子。」
千紗子を両腕に抱えたまま、雨宮は目を閉じた。