Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
千紗子が夕飯の準備をしている間に、雨宮が入浴を済ませ、その後は夕飯を食べた。そして夕飯の片づけは雨宮が買って出たので、千紗子はその間に入浴を済ませた。
こうして雨宮の家に世話になってまだ二日ほどなのに、既に二人暮らしのペースが整いつつあることが、千紗子は不思議でならなかった。
(裕也との同棲スタートは、こんなにスムーズに行かなかったのにな…)
同棲し始めたのが、お互いが社会人になって割とすぐだったから、仕事にも同棲生活にも慣れなれずに四苦八苦した記憶が千紗子にはある。
もっとも四苦八苦したのは自分だけだったのかもしれない。
裕也は仕事から帰ってくると、自分のペースで風呂に入ったり食事を取った後は、テレビを見たり本を読んだり、とどこまでもマイペースに動いていた。千紗子はそんな彼に合わせる形でせっせと家事もこなしていたので、最初の頃はかなり疲れた記憶があった。
(正直、もう少し仕事に慣れてから一緒に暮らし始めれば良かったかも、と思ったこともあったわね…)
裕也の世話を焼くこと自体は苦ではなかったのだけれど、自分自身も新人として覚えなければならないことが山のように有って、時間がいくらあっても足りないような時期だったのだ。
結局頑張り過ぎた千紗子は熱を出して数日間寝込んでしまい、その時になってやっと彼女に甘え過ぎていたことにやっと気付いた裕也が、少し家のことをするようになって、何とか乗り切ることが出来たのだ。
それもだんだんと減っていって、最近ではすっかり無くなってしまっていたのだけれど。
(雨宮さんもきっと、私に気を遣ってくれてるだけよね…。)
もしもこのままずっと一緒に暮らしていたら、彼もだんだんと何もしなくなるのかもしれない、と千紗子は考える。
(…て、なんで『このままずっと一緒に』なんて想像してるのかしら!?そんなことは有り得ないわ……)
頭を左右に振って、ばかげた考えを追い払う。
すると、バリトンの声がすぐ耳の横の空気を震わせた。