Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
 「すみません。盗み見のつもりはなかったのですが、たまたま蔵書整理に行った所で見かけてしまって。あ、千紗ちゃん以外には話してませんからご心配なく。」

 雨宮は無言でビールを流し込んだ後「は~~~」と長い溜息をついた。

 「で、その子にはお返事したんですか?」

 「ああ。手紙を受け取った時に、中身は見ていなかったが『君の望むようにはできないと思う』と告げておいたよ。」

 「そうなんですね。まあ、相手が女子高生じゃ、どうこう以前の話ですよね。」

 「まあね。」

 そう言って彼は困ったように微笑んだ。

 「でも、雨宮さんもあちこちで言い寄られるのが嫌でしたら、さっさと身を固めたら良いと思うのですが。」

 さらりと鋭い指摘を入れる美香に、千紗子は驚いてしまう。

 (美香さんは雨宮さんと年も近いし、同僚としての付き合いも私より長いのだけれど、同じ条件でも私ならそんなにフランクに話すことなんて無理だわ。)

 そもそも、雨宮さんと職場以外でこんなに長く一緒にいるのは初めてのことだ。

 職場での忘年会や歓送迎会が年に数回あるけれど、課長という役職の彼の周りには、上の役職の方々や彼のファンを称する先輩方が群がっていて、下っ端の千紗子とは飲み会ですら交流は無かった。有っても最初と最後の挨拶程度だ。

 今だってこんなに近くにいるものの、話しているのはほとんど美香だ。
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