Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
「そうだね。俺もそう思うのだけど、なかなか相手に恵まれなくてね。」
そう困ったように言う雨宮が、なぜか千紗子の方を見る。
黙っているのになぜか視線を向けられた千紗子は、反射的に口を開いた。
「雨宮さんでも相手に恵まれないなんてあるんですか?」
焦るあまりそんな質問を口にしてしまい、「しまった」と更に焦る。
「す、すみません。不躾なことを聞いてしまって。」
そう言って謝ったら、すぐさま向かいの美香も「それ、私も聞きたいです。」とすばやく反応する。
うっかり彼女の好奇心に火をつけてしまった千紗子は、雨宮に申し訳ない気持ちになる。
こうなった彼女から逃れられる術は無いことを、千紗子は身を持って良く知っていた。
「そうだな…『俺でも』、とは思わないけど、好きになった人が自分のことを好きになってくれることなんて、当たり前に起こることではないんじゃないかな…。俺は好きになった子と結婚したいから、好きな相手が自分のことを見てくれない限り、結婚は出来ないだろうな。」
そう語る雨宮は、少し寂しげだ。
(雨宮さんだって、普通の男の人なんだわ…)
容姿端麗で仕事の出来る大人の男性でも、そんなふうな叶わない恋をすることもあるんだな、と思うとちょっと切ない気持ちになる。
「ということは、今は片思いの相手がいらっしゃるということですね。」
しんみりとした雰囲気の中、美香が更なる質問を投げかける。
千紗子はそんな鋭い追い打ちをかける美香にびっくりした。
(なんて、すごいハンターなの…とことん追求するつもりなんだわ!)
美香の好奇心には、感心を通り越して感動すら覚えてしまう。
「河崎は鋭いな。」と苦笑いをした雨宮は、手に持っていた日本酒をクイっと呷った。
「いいじゃないですか、こんな機会めったにありませんし。それにここにいる私たちは決まった相手がいるので雨宮さんの追っかけじゃありませんよ。もちろん誰にも漏らしたりしません。」
美香の勢いに押されて、千紗子も黙ったままコクリと頭を縦に振った。