Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 思いがけず雨宮の恋バナを聞いた後は、仕事の話や好きな小説の話、旅行に行きたい場所の話など、会話がアチコチに飛びながらも和やかに時間が過ぎていった。

 相変わらず会話に上手に入って行けない千紗子だったけれど、美香さんが上手に話を振ってくれたおかげで、雨宮ともそれなりに会話を交わすことが出来た。
 
 料理もお酒も十分、という感じになった頃、美香の鞄の中で着信音が鳴った。

 「ちょっと、ごめんなさい。」

 そう断った美香は、電話取りながら店の外へと出ていく。

 千紗子は雨宮と二人っきりの状況に、そわそわと落ち着かない気持ちになった。

 間を持たせる会話なんて、そうそう出てくるわけもなくて、美香が早く戻ってこないかと、ついつい店の入口ばかりに目が行ってしまう。

 「時間は大丈夫なのか?」

 そんな千紗子の様子を見た雨宮は、自分の袖をサッと上げて腕時計を確認しながら聞いてきた。

 「は、はい。今日は美香さんのお部屋に泊めていただくことになっているんです。」

 美香の自宅アパートはここから歩いて15分くらいのところにある。
 明日は休館日なのでゆっくり飲もうと、前以てそういう話になっていた。

 もちろん裕也にもそのことは伝えてある。

 (裕也、明日はちゃんと起きれるかしら……。)

 ふと、そんなことを考えていたところに、通話を終えた美香が戻ってきた。
 
 美香は席に戻るなり、座りもせずに、「千紗ちゃんゴメンっ!!」と顔の前で手を合わせて顔を下げた。

 「どうしたんですか?」と尋ねると

 「彼が急に体調を崩したみたいで…千紗ちゃんをうちに泊めてあげることになってたけど…」
 
 言い辛そうにそう話す彼女に、

 「私のことは気にしないで、彼氏さんの看病に行ってあげてください。」

 幸いまだ電車が通っている時間だし、帰宅するのに何の問題もない。

 みんなで帰り支度をして外に出た。
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