天満つる明けの明星を君に【完】
夫の居る身の女に不貞を働くのは道徳的にも自分自身においても、してはいけないことだということは分かっている。

だが雛菊は愛のない夫婦生活だったと言い、朔もまた夫婦生活は破綻していて、夫が秘密を持っていると打ち明けた。

――そうなればもう、その秘密を暴いて離縁させた後告白して、自分と夫婦になってほしい、と告白するつもりだった。


「恥ずかしい…!私には旦那様が居るのに…!」


「…でも僕は嬉しかったんだ。だから雛ちゃんが僕を求めてくれて、応えてしまった。それで僕も雛ちゃんも悩んでしまって戻って来れなくなって…本当にごめんね」


「どうして天満様が謝るの…?私…あの時、身を委ねたいって思っちゃったの。酔ってる天満様はきっと次の日何も覚えてないだろうから大丈夫って…」


うずくまる雛菊の身体を起こしてやった天満は、大きな目に溜まる涙を指で拭ってやると、両頬を手で包み込んでこつんと額をぶつけた。


「僕も覚えてないふりをして雛ちゃんを…その…だ、抱こうとしたんだ。でも不貞を働いちゃいけないってなんとか踏み止まってた。だけど、嘘はつけない」


天満は――雛菊の少し開いた唇に唇を重ねた。

知識だけは耳年増なだけあって豊富で、今は冷静にそれを実戦して舌を絡めて雛菊の身体を痙攣させた。


「今は…これが答えだと思ってほしい。雛ちゃんが若旦那の秘密を知ってるのは分かってる。だけど言わなくていいよ、僕がそれを暴いて、そして…」


そこではたと思い立った天満は、また雛菊の顔を覗き込んだ。


「雛ちゃんは若旦那と離縁したい?そういえば訊いてなかったんだけど」


「私は…旦那様を愛そうとしたけどできなかったの。天満様、私…離縁したい」


「うん、分かった。僕に全部任せてほしい。全部終わったら…ちゃんと言うから」


――それはもう、‟好きだ”と言われたようなものだった。

雛菊は猛烈に幸福感が競り上がってくるのを感じて、顔を上げて天満の唇をねだった。


「天満様…もう一度…」


また唇が重なった。

もう離れない、離したくない――

互いにそう思い、何度も唇を重ね合った。
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