天満つる明けの明星を君に【完】
童の時以来朔には会っていなかったが――あの頃より途方もなく男らしく美しくなった朔の傍に座っていた雛菊は、終始目を合わせることができず俯いていた。

天満もとてもきれいだけれど、朔のそれは想像を遥かに上回っていて、話しかけることもできずただただ俯いていると、朔がふっと笑う気配がした。


「女版天満、って感じだな」


「え?」


「天満も家族以外と接する時は口数が少なくなったり目を合わせることがあまりないから、似てるなって思っただけ」


その低い声色にも強い引力を感じてくらくらしていると、台所に行った息吹を見送った天満は肩を落としながら朔の前に座った。


「覚悟はしてたけど…今日は長い一日になりそうです」


「うん、ものすごく母様張り切ってるから精一杯相手してやってほしい。後で父様も来るみたいだぞ」


――朔はふたりの間に流れる妙な緊張感に気付いていた。

文のやりとりは毎日のように続けていたものの…両想いになったと短く書かれたこと以外は実は知らない。


「天満、どの位滞在できる?」


「そうですね…長くとも数日と言ったところです。あっちに戻って若旦那を捜さないと」


「その話をふたりでしたい。庭に出て話そう。山姫、雛菊に部屋を案内してくれ」


「あいよ」


雪男と同じく屋敷の一切合切を管理している山姫に雛菊を託した朔は、あまり表情の冴えない天満と庭に下りて池の方に向かった。

悩んでいることがあれば大抵この池に行って鯉に餌をやりながら兄弟で悩みを話し合う慣習があり、そこに呼び出されたとあれば天満もすぐにぴんときた。


「雛菊と何かあったのか?」


「それ…長い話になりますけど」


「長くなっていい。お前の思いの丈を全て吐き出せ。俺が全て聞いてやる」


なんだか心底ほっとした。

この長兄の手を煩わせるわけにはいかないとずっと我慢していたものがこみ上げてきた天満は、ぽつぽつとだが、今までの出来事を話しながら、思いを吐き出した。
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