天満つる明けの明星を君に【完】
ひとり幽玄町の繁華街に繰り出した雛菊は、その賑やかさに圧倒されていた。

鬼陸奥もそこそこ栄えていたと思うが…ひとり往来を歩いていると、やはり人とは違う可憐さを備えた雛菊は妖だと分かり、皆が道を譲ってくれた。


人と妖が共存する町――

そんな理想郷を実現させている鬼頭家の者たちはやはり住む世界が違う雲の上の存在。


勢いで告白したものの、嫁になれるわけでもなし、抱かれるわけでもなし…

天満を困らせるだけで、ろくに恋仲でやるようなことはできていない。


「私…もう帰ろうかな、鬼陸奥に」


天満もいつかはこちらに戻って来ると朔から聞いて狼狽えたが、それは当然のことだろう。

まず鬼頭の者が幽玄町から出ることはなかったし、今回鬼陸奥に来てくれたのは朔の厚意だ。


「雛ちゃん!」


「!天満様…」


さあっと人垣が割れると、そこから息を切らせて駆けてきたのは天満だった。

あちこち捜してくれていたのか――嬉しかったけれど、実のところ今は構ってほしくなくて、俯いた。


「ひとりで出かけるなんてどうしたの、びっくりしたよ」


「ちょっと歩きたくて。もうすぐ帰りますから戻ってて下さい」


なんで敬語、と言いかけた天満は、雛菊がそうやって自分を突き離そうとしていることに気付いて息を整えると、首を振った。


「ここは安全な町だけど、妖は彼らにとって怖い存在なんだよ。僕たちがよくても、人は違うんだ。そして僕たちは恐れられなければならない。だからむやみに町を歩かないで」


正論を振りかざされた雛菊は、天満の脇をすっと通り過ぎて屋敷に向かって歩き出した。

いつもならしずしずと天満の後ろを歩くのだが――むしゃくしゃして、何に対してか分からないけれど、怒りでどうにかなりそうだった。


「じゃあ戻ります」


「一緒に…」


「大丈夫です」


ずんずん歩いていく雛菊を茫然と見ていると、その背中が明らかに怒っていて、途方に暮れた。


どうやら策は失敗したようだ。

帰ったら今までのことは全て仕掛けた策でしたと打ち明けて謝ろうと決めた天満は、雛菊の少し後ろを歩きながら、一度も振り返らない雛菊をずっと見ていた。

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