天満つる明けの明星を君に【完】
悪阻はとてもつらいものだが、雛菊はそれを楽しんでいた。

どうしても家族が欲しくて、家族に恵まれれば駿河も暴力をやめていい夫になってくれるかもしれないと思っていた。

だが…妊娠したと分かり、これが悪阻なのだろうかと思っているうちに流れてしまい――

だから、本当に好いた男との間に産まれる子がもたらす悪阻は、どんなにつらくても耐えられる自信があった。


「雛ちゃん、僕またちょっとあっちに行って探って来るから絶対雪男たちの傍に居てね」


「天満さん、もういいのに…」


「駄目だよ生死が確認できるまで僕は続けるから。雛ちゃんだってその方が安心するでしょ?」


「…うん」


「じゃあ行ってくるね、走ったりしちゃ駄目だよ」


――祝言からひと月経ち、幽玄町での暮らしに慣れた雛菊は、雪男たちともとても打ち解けて快適に暮らしていた。

息吹と十六夜はふたりで暮らしている屋敷に戻って行ったのだが息吹は毎日のように会いに来てくれるし、全然寂しくない。

天満は朔を手伝うため百鬼夜行に出て行ったり、日高地方へ行って駿河の行方を追っていたりとにかく忙しなく、それでもほとんどの時間を一緒に過ごしてくれていた。


「天満さんは私にはもったいないな…」


「そうか?あいつちょっと抜けてるし、のほほんとしてるし、粗探しすれば沢山出てくるぜ」


「雪男さんは天満さんたちの父的存在だからそんなこと言えるんですよ。あんな素敵な方が旦那様なんて今でも信じられないのに」


雪男は居間で文に目を落としながら白い歯を見せて笑った。


「まあでも父親になるんだし、あいつはもっと強くなる。主さまも楽できるだろうし、肩に乗ってる荷が半分になるから俺はあいつがここに残るの賛成なんだ」


朔たちへの深い愛情を感じた。

雛菊はとても頼もしく思いながら春のとても温かい日差しを浴びて、心からの笑みを浮かべた。
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