天満つる明けの明星を君に【完】
朔は割と早い時期から女を知っていた。

だが天満は相変わらず初心で女に疎く、成長して美しさが増してもう誰も素通りできないほどの美貌の持ち主なのに、女とまともに会話すらできず、目も合わさない。


朔…いや、父含め家族皆がそれを心配していた。


「天満…お前、病気なのか?」


「え?僕は健康体ですよ?」


「だけど…お前まだ女を知らないんだろう?好いた女でも居るのか?…雛菊とか?」


久々にその名を聞いて、あまりの懐かしさに天満は目を細めて日課の朔との晩酌の席で笑みを漏らした。


「なんだか女の子が怖いんです。襲い掛かられそうで」


「お前がそんなだとそれは現実になるぞ。好きでもない女にはじめてを奪われてもいいのか?」


「え…っ、それはちょっと嫌です。でも雛ちゃんか…今どうしているんですかね」


朔は少し黙って言おうか言うまいか考えていた。

もし天満が雛菊を一途に思って女を抱かないでいるのであれば――傷つけてしまうから。


「天満…雛菊の件なんだが…雛菊は嫁いだらしいんだ」


天満は一瞬きょとんとしたが――雛菊が伴侶を得て幸せに暮らしているのだと知って、笑んだ。


「そっか、雛ちゃん…家族を持てたんですね。なんだかとっても家族を欲しがってたから」


「…俺が当主になったらもう少し詳しく調べるけど、とにかく雛菊の件は頭の片隅に置いていてほしい」


「え?はい、分かりました」


意味が分からなかったが、とりあえず頷いた。
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