天満つる明けの明星を君に【完】
小さな頃からそうだったが――女と話すのが苦手で、目が合うといつもぎらぎらした目で見られていて、母のような優しい女の人は居ないのかと絶望したことがある。


それは現在進行形で続いていて、成長して強くなった今、昔朔が言ったようにやはり女は強い男が好きらしく、雪男や朔と庭で鍛錬をしている時は決まって庭のあちこちから熱視線で見つめられて辟易することが多かった。


「天満様…美味しい果実水をどうぞ」


「ああ…どうも…」


女の百鬼からの差し入れも多く、いずれほとんどが朔の百鬼となるため邪険にもできずに目を合わさないままとりあえず差し出されたものは貰っておくが――何が入ってるかも分からないため飲み食いはしない。


以前媚薬を仕込まれたことがあってそれこそ襲われる寸前の目に遭ったため、天満の警戒は相当なものがあった。


「天満、そういえば伊能が御所から持ち帰って来たものがあるから見に行こう」


「?はい」


昼を過ぎて十六夜が起きたのを見計らった天満たちは、居間の前の縁側で煙管を噛んでぼんやりしている十六夜の両隣に座ってふたりでにこにこした。


「…なんだ?」


「父様、天満のために取り寄せたものがありますよね?」


「え?僕のために?」


「……ちょっとこっちに来い」


広大な屋敷のため普段使っていない客間が沢山ある。

とある客間に近付いた時――朔と天満は同時に足を止めた。


――明らかに禍々しい気を発している。

襖は閉められているが、飲み込まれてしまいそうなほどの妖気を感じて眉を潜めた。


「長年血を吸い続けて自我を持った刀が二本ある。かろうじて封印を施されているが、それでもこの妖気だ。…天満、お前が御することができれば、お前にやる」


「え…」


自我を持った刀…ということは天叢雲と同じ。

自分の妖気にあてられて折れないのであれば、是非とも手に入れたい。


「僕…やります」


「…飲み込まれるな。お前を懐柔して操ろうとしてくるかもしれない」


「はい。頑張ります」


「天満、頑張れ」


そっと襖を開けた。
< 29 / 292 >

この作品をシェア

pagetop