天満つる明けの明星を君に【完】
「本当に…いいのか?」


朔は何度も訊いた。

埋葬を終えた後、天満はしばらくひとり雛菊の墓の前に立っていたが、皆と合流して帰りの道中、朔にこう言ったからだ。


僕は大丈夫だから、もう帰っていいよ、と。


「うん、もう終わったからいいんです。後は…そうだなあ…ちょっと独り静かになれる時間が欲しいです」


「だけど…」


「ははっ、朔兄は相変わらず心配性だなあ。自死なんてしないし、僕は本来の役目をここで果たしながら雛ちゃんと娘を偲びます。だから時々遊びに来て下さいね」


「時々と言わず足繁く通うからな。だからお前も時々は帰って来い。でないと母様が心配してここに押し掛けて来て一緒に住むとか言い出しかねないからな」


朔に見抜かれた息吹が唇を尖らせていると、星彩は無言のまま突然天満に抱き着いた。

母譲りの天性の力で少し不安が解消された天満は、星彩の背中をぽんと叩いた後離れて息吹の手を引いて朧車に乗せた。


「いつか顔を見に帰ります。どうかお元気で」


「うん…天ちゃんもね。また雛ちゃんと会えるの…楽しみだね」


「はい。母様が導いてくれなかったら雛ちゃんは駿河の呪いから解放されなかったと思うんです。僕…母様の子に産まれて良かった。本当にありがとう」


…今生の別れに聞こえた。

息吹はぎゅっと目を閉じて涙を見せないようにして俯いた。


「じゃあまた。文のやりとりは今まで通り続けよう。いいか、独り思い悩むことがあればすぐに駆け付ける」


「はい。朔兄も星彩も元気で。雪男、朔兄を頼んだよ」


「了解。お前もせっかく武の才があるんだから鍛錬を怠るなよ」


はあいと間延びした返事をした天満は、皆が乗り込んだ朧車が宙に浮かぶと、手を大きく振った。


見えなくなるまで手を振って、空に白い息を吐いた。
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