天満つる明けの明星を君に【完】
天満が帰った後、駿河の母は駿河を強く叱りつけた。


「お前って子は!主さまのご兄弟になんて不遜な態度を取るんだい!?」


「母さん、雛菊は私の妻なんだ。妻が独り身の男の元に通うなんて納得できない」


「お前はいつもそうやって雛菊を庇うけれどね、あの娘は子も産めないし接客も下手だ。はっきり言うと役立たずなんだよ。離縁して若い嫁さんを貰った方がいいって何度も言ってるんだろう?」


「いや、雛菊じゃないと駄目だ。私は幼い頃から雛菊を想い続けて、やって手に入れたんだから」


その妄執――執着心は凄まじく、雛菊は隠しているが、時々打撲のような傷を負っているのを姑も気付いていた。

だが夫婦間のことに口出しをすると、この息子は手もつけられなくなるほど荒れるため、口出しできずにいた。


「うちは主さまに莫大な金銭を頂いてるんだよ。雛菊が天満様の元に通えばもっともっと金が転がり込んでくる。お前は一切口出ししてはいけない。これは我が家の今後に関わってくることだからね」


「…」


雛菊に手伝いをしてもらうことで、朔から多大な援助金が出ていた。

経営が傾きかけていた時に舞い込んだ朗報だったが、駿河はなかなか納得しなかった。


「雛菊…天満様とどこに行ってたんだい?」


「日高へ。人を食う山猫が暴れていて、天満様は見事退治されました」


あまり感情を込めずに淡々と語った。

感情を込めてしまえば駿河が強烈に嫉妬してまた暴力を振るってくるから。


「旦那様、帳簿の確認終わりました。私少し仮眠してきます」


「…その後また天満様の元に行くんだね?」


「それが私の仕事ですから。お義母様にも重々手厚くお仕えするよう言われていますので」


姑のことを口にすると駿河は少し態度を軟化させる。

雛菊は駿河と目を合わさぬよう深く頭を下げた後、寝るために私室に向かった。


…早く天満に会いたい。

もう、心は偽れなかった。
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