天満つる明けの明星を君に【完】
恐ろしいことに、朔が用意した一升瓶三本はあっという間になくなった。

朧や芙蓉、柚葉は乳飲み子が居るため嗜む程度だったが、朔たち兄弟と雪男は超がつく酒豪なため、留まることを知らない速さで一升瓶を空にしてしまった。


「雪男、追加を持って来てくれ」


「了解!」


「あぁ…朔兄、本当に百鬼夜行は大丈夫なんですね?」


「問題ない。もし酔い潰れた時はぎんに頼んで代行してもらう」


「ぎん…ああ、確か白狐の九尾でしたね。父様とは敵対関係にあったのに今となっては朔兄の百鬼だなんて不思議ですよね」


「あいつは実は伊能と同じで、うちと深い縁のある九尾の一族らしいんだ。初代の文献に出て来た九尾とぎんの話を照らし合わせてみたんだが、間違いないと思う」


「へえ、それは随分前からの知古なんですね。父様は知ってるんですか?」


朔は追加された酒をまた水のように飲みながらこくんと頷いた。


「もちろん知っているだろうな。ぎんがうちに居着いた以上、あいつの一族は今後うちから離れないと思う。鬱陶しい」


「聞こえているからな」


屋根の上から銀(しろがね)が笑いながら声をかけてくると、朔は肩を竦めて天満の膝で寝てしまった暁の小さな手を握った。


「暁が大きくなったら焔と縁談させろとかしつこく言ってきてるけど、俺は反対」


「私は暁が選んだ男なら誰でもいいわ。婿養子に来てくれるのなら大歓迎」


「…嫁には出さない」


「出た出た!主さまの‟嫁に出さない”発言!最近の口癖だよな、大体主さまの弟妹ほとんどが大恋愛で夫婦になってんだから暁もそうなるに決まってるって」


朔がむっつりすると、今度は天満もむっつり。


「僕の目の黒いうちは嫁には出さな…」


「どっちが父親だ!」


ふたり父の居る暁はぐっすり熟睡中。
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