天満つる明けの明星を君に【完】
朔と輝夜が相次いで妻を迎えたため、目下独り身なのは天満のみ。

百鬼の中には輝夜とはまた違う物腰やわらかい天満に夢中な者も多く、広大な庭のあちらこちらから天満を見つめる熱い眼差しがあった。


天満はもちろんそれに気付いていたが――絶対にそちらを見ることなく、ぼやいた。


「やだなあ…すごく見られてる」


「独り身なのはお前だけだからな。女の百鬼たちはお前の事情を知らないから仕方ない。声くらいかけてやればどうだ?」


「え!?い…いやですよそんな期待させるようなこと…したくないです」


「そういえばお前は昔から女子と話すのが苦手でしたね。まさか今も?」


「そうですね、必要以上に話さないようにしてます。あと目も合わさないようにしてます」


芙蓉と柚葉はそれを茶を飲みながら聞いていた。

もったいない…という心の声が駄々洩れ状態だったのだが、そこで輝夜が何故か全開の笑顔。


「お前は雛菊(ひなぎく)と夫婦になるまで童貞でしたけど、まさか今もそんなに初心とは思っていませんでしたよ」


「ごほっ!ど…どどど」


芙蓉と柚葉が同時に茶を吹き、同時にどもった。

天満はとんでもない暴露をされて、じわりと殺気を漂わせながらにっこり。


「輝兄、笑顔全開でどうして僕の性体験を暴露してるんですか?馬鹿なんですか?」


怒ると辛辣になる天満の馬鹿発言に輝夜は若干及び腰になりながらも、おどけるように肩を竦めて見せた。


「雛菊のおかげですよ。お前と夫婦になってくれなければ、お前は一度も所帯を持つことはなかったかもしれないんですからね」


「ああ…まあそうですね、うん、それはそうです。雛ちゃんのおかげです」


「あの…雛ちゃんっていうのは雛菊さんという方で、天満さんのお嫁さん?」


柚葉がおずおずと問うと、天満は頷いて盃を口に運んだ。


「そうです。その顔…もしかして雛ちゃんのこと聞きたいんですか?」


芙蓉が結構な力で柚葉のわき腹を肘で小突いた。

柚葉は身を捩りながら素直さ全開で頭を下げた。


「聞きたいです。よければ教えてください」


「そうですか、うん、分かりました。ちょっと長いですよ?」


「じゃあ俺、ぎんに代行頼んで来る」


朔、さぼる気満々。
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