略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~

 しかも、さらに今は匠海の車の中。

 誰にも邪魔されない密室にふたりきりだ。

 唯一の救いが、匠海が運転をしていること。

 アクセルを踏んでいる間の意識は、美郷の方には向けられないはずだった。


「寄りたいところあるから、寄らせて」


 沈黙に満ちていた車内で匠海が口を開いたのは、会社を出て十数分後。

 車の揺れと熱に、頭がぼうっと浮かされていたところで、突然匠海の近さを強烈に感じた。

 心臓が破けそうなほど大きな音を立て、虚ろだった思考が醒めた。

 送ってもらう手前だめだとは言えずに、ぎゅっと身を固めて無言でうなずく。

 隣には匠海が居て、気を紛らわそうと目を瞑っても、瞼の裏には匠海の顔が浮かんでくる。

 寝ても覚めてもとはこのことで、美郷はどう足掻いても匠海のことでいっぱいになっていた。
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