略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~
「それは匠海さんが、そう呼ばないと業務中に大声で交際宣言すると脅してきたから仕方なくです」

「脅しただなんて人聞き悪いな。でも、もう口に馴染んでるだろ? 俺の名前」


 しめたと言わんばかりの勝ち誇った笑顔に、美郷の口はへの字に曲がった。

 このやり取りは、ほぼ定例化している。

 いくら繰り返しても不毛なのに、結城匠海(ゆうきたくみ)は全く懲りる様子はなかった。

 こんなにナンパなことをしながらも、彼がただの女たらしでないことは、彼の肩書きと毎回の商談の手腕を見ていればわかるだろう。

 U&K証券・営業戦略部、若くして部長職を肩書とする匠海は、月に数度、成京銀行の信託課に商品の持ち込みに訪れては、美郷に必ず声を掛けていた。


「間もなく、佐藤代理が参りますので」


 美郷はそのナンパさに屈することなく、緩くサイドに結った黒髪をさらりと揺らして、粛々と頭を下げる。


「美郷ちゃん」


 懐っこく下の名前を呼ばれるのも、嫌でも耳に馴染んでしまった。
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