略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~
 美郷がお辞儀から直ると、匠海は笑みを消した琥珀の瞳で真っ直ぐに見つめてきた。


「今度こそ、返事考えておいて」


 この心の奥にまで手を伸ばしてくるような真摯な瞳だけは、この1年半何度も繰り返されても一向に慣れずにいた。


「か、考えるも何も、選択肢なんてありませんし」


 ぷいと顔を背けて、妙な心臓の鼓動をやり過ごす。

 お茶ありがとう、とすれ違いざまにおっとりと声を掛けてくれた佐藤代理に、うつむいたまま会釈をして足早に給湯室へ戻った。

 黒漆喰のお盆を定位置に戻して、まだお茶の香りはびこる給湯室で深く呼吸を吐く。

 どうにか騒がしい心臓を落ち着かせることができたけれど、今見たあの突き刺さるような眼差しは脳裏に残り、美郷の胸をぐっと圧迫した。

 言い方こそ軽口ではあるけれど、匠海の想いが真摯なものであると美郷はわかっていた。

 わかっているからこそ、申し訳なさでいっぱいになる。


「どうやったら諦めてくれるんだろう……」


 胸を圧してくるもやもやとしたものを溜め息と一緒に大きく吐き出した。
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