王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~



 俺の眼下で、月明りに照らされてエミリーが眠っていた。

 エミリーの眠りは深く健やかで、俺は無理に起こす事をせず、運んできた夕食の膳は厨房に下げさせた。

 そうして枕辺に寄ると、愛しいその人の寝顔をそっと覗き込む。月明りの中に浮かび上がるエミリーは、触れるのが躊躇われるほど綺麗だった。それはさながら、清く美しい女神のよう。

 けれどエミリーの美しさが、単純な顔の造作にとどまらない事を、今の俺は知り過ぎるほどに知っている。
 エミリーは己が知識に驕らず、偉ぶらず、他の為に活かそうと奔走する。その心根に、惹かれない訳がない。知れば知るほどに、エミリーが一層艶やかな存在感でもって、俺を魅了する。

 エミリーへの募る愛に、胸が切なく軋みをあげる。けれど愛は、同時に胸を高鳴らせる。それは、エミリーと紡ぐ未来への希望。

 清く美しい女神がいつか、俺だけに甘やかに微笑んでみせる。俺は女神に微笑み返し、愛しい女神をこの腕に抱き締める。

 月明りの下でエミリーを眺めながら、俺はそんな願望を切なく巡らせていた。

 ……切なく? いいや、そうではない。



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