王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~
私は緩く首を振り、左頬を包むフレデリック様の手に、そっと自分の左手を重ねた。
「だけど一方で、嬉しいと感じる私がいました。嬉しいのに、踏み出せずに二の足を踏む、臆病な私です」
そうして右手を、上から影を落とすフレデリック様の頬に差し伸ばす。
「フレデリック様、本音を言えば互いの感情だけが頼りの愛し愛される関係には、いまだ怖さが先に立ちます。だけど、そんな関係をフレデリック様と育んでみたいと思う私がいます」
「……十分だ」
え?
頭上から、低く重くもたらされた呟き。けれど呟かれた一語はあまりにも短くて、それだけでは明確な意味を結べない。
「今の俺には、それだけで十分だ。いや、十分過ぎる言葉だ」
見上げる私を、フレデリック様の水色の双眸が見つめていた。この瞬間、比喩じゃなくその瞳に吸い込まれてしまいそうだと思った。