王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~



 英美里は、岩蔵家の長女として生を受けた。岩蔵家というのは、華族令の廃止で現代でこそ華族の名をなくしたが、華族の中でも名門中の名門、公爵位の家格を持つ名家だ。
 傍から見れば華々しい名門の内実は、醜聞まみれの実にお粗末なものだった……。

 普段、英美里が……いや、英美里である私が両親と共に暮らすのは、都内一等地に構える岩蔵家の本宅。他にも岩蔵家は別宅や、マンションなんかを幾つも所有していた。
 とはいえ、その本宅で私が両親と一緒の時間を過ごす事は稀で、私はほとんどの時間をお手伝いの女性と共に過ごしていた。

「今度の出張は、長いんですか?」

 その日は珍しく、早朝の玄関に父の姿があった。その父に向かい、母が靴ベラを手渡しながら問いかける。

「そうだな。向うの状況次第だが、数ヵ月かかるかもしれないな」
「そうですか……」

 幼い私は、両親の間に流れる空気がぎこちない事に気付かない。

「お、お父さんっ! いってらっしゃい!」

 私はただ、五か月ぶりに目にした父の姿が嬉しくて、気付けばその背中に向かって呼び掛けていた。



< 70 / 284 >

この作品をシェア

pagetop