王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~
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アイリーンが帰ってしまうと、室内は水を打ったようにシンとして静かだった。
無意識に首を巡らせて、目を留めたのは部屋の片隅の洗濯物干し。今は何も下がっていないそれを見るともなしに見ながら、思い浮べたのは先程のアイリーンの言葉だ。
アイリーンは、結婚なんてこれっぽっちも望んでないし、ビジネス以外で男となんて関わりたくもないと、そう言った。
アイリーンは、それだけ心に傷を負う仕打ちを元婚約者の男性から受けている。エミリーは別段、アイリーンのように、なんとしても結婚を避けたいと思うような実体験があった訳じゃない。
……だけど、英美里はそうじゃなかった。
結婚にも、もっと言えば家族というものにも、英美里は夢なんて持っていない。物心ついて三十歳で亡くなるまで、英美里はずっと虚構の家族というしがらみに苦しんでいた。
……そもそも英美里は、母の胎に宿るべきではなかった。
生まれてきてはいけない子供だった……。