Chinese lantern
「……ソラ」

 顔を上げた輝血だったが、その目が見開かれた。
 ソラの身体を包む靄が、濃くなっている。

『死んだ後でも輝血みたいな女子に会えて、しかも最期はガキでもなく、輝血よりも年上の姿に戻れるとは、俺はつくづく幸せだ』

 もわもわと靄が濃くなるにつれて、ソラの声も聴き取りづらくなる。
 輝血の心が、ぎゅうっと萎んだかと思うと、一気に弾けたようだ。
 こみ上げる何かに突き動かされるように、輝血はソラにしがみついた。

「やだっ! ソラ、いなくなったら嫌だ!!」

 輝血の手はソラの単衣を掴んでいるのに、その手触りは物を掴んでいる感触とは程遠い頼りなさだ。
 ソラが、ちょっと驚いたような顔をした。

『主様も言ってただろ。輝血はもう一人でも大丈夫。現に今も、悪鬼は土から出られない』

 ふと見ると、少し向こうの地面が少し盛り上がっている。
 が、若干波打つ程度で、姿を現すことはできないようだ。

『さっき俺が倒した奴が、襲い掛かってくる最後だよ』

 ほら、とソラが持っている刀を示した。
 ずっと長い間ソラの愛刀だった白木の刀は、刃毀れした上、切っ先が折れていた。

『刀と一緒に、俺の役目も終わったってことだ』

「嫌だよーっ! ソラはずっとわっちといたいって言ったじゃないか! だから輪廻の輪から外れてまで、わっちと一緒にいたんだろ! 今更一人にするなぁっ!」

 叫ぶと同時に涙が溢れる。
 こんなに気持ちが揺れたのは何時振りだろう。

 そう言っている間にも、ソラを包む靄は濃くなり、掴んでいるソラ自体の存在もあやふやになる。

『おやおや、意外な反応だな。こんなに長い間一緒にいても、輝血はさっぱり靡いてくれなかったのに』

 いつもと変わらず軽い物言いで、ソラが言う。
 そして己の手を掲げた。

『今なら輝血を抱きしめられるかな。でも折角元の姿に戻ったのに、実体がなくなってしまったら無理か』

「ソラ……。何でいきなり実体がなくなってるんだよ」

『おいおい、輝血らしくもない。俺がこうなることは、わかってただろ?』

「わからないよっ! ソラはずっと、わっちといるって……」

 ぼろぼろと零れる涙が、ソラの腕に落ちる。
 だかそれはソラの腕を濡らすことなく、何もないかのように地に落ちた。
 掴んでいるはずの手にも、気付けば何の感触もない。

「ソラ……」

 恐る恐る顔を上げると、ソラが至近距離で見つめている。

『さよならだ』

 ふわ、とソラの腕が、輝血を包んだと感じた瞬間、ソラの姿は掻き消えた。
 悪鬼のように、後に砂が残るわけでもない。

「ソラーーっ!!」

 絶叫する輝血の足元に、からん、と折れた白木の鞘の刀が転がった。
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