Chinese lantern
第一章
指定された日は綺麗に晴れ上がった。
 刑場ではそこここにいかめしい顔をした役人が立っている。
 そのうちの一人が、二人を認めて上役を連れて来た。

「本日はよろしくお願い申す」

 結構な地位らしき壮年の役人が、小さな輝血に対して頭を下げた。
 仕事柄牢役人や首切り役人とは顔見知りだ。
 が、役人はちらりと目を輝血の横に滑らせ、妙な顔をした。

「あ、ご安心なされよ。これはソラでありますれば」

 輝血の言葉に、役人は少し驚いた顔になった。

「は、そ、そうでありましたか。いや、失礼いたした」

 すぐに納得し、ソラにも頭を下げる。
 少し微妙な表情で、ソラも小さく頭を下げた。

 やがてその場が水を打ったように静かになる。
 引き出されてきたのは、いかにも悪そうな男だ。

「あ~……。どうせ送るなら、見目良い男がいいのぅ」

 周りに聞こえないよう、ぼそ、と輝血がぼやく。

「向こうは輝血で嬉しいじゃろうがなぁ」

 ち、と忌々しげに舌打ちするソラは、刑場に引き出されてきた罪人よりも、よほど悪い顔になっている。

「私情を挟んで手を抜くなよ」

「そんなことしたら、主(ぬし)様に滅せられる」

「いきなり滅することはせんと思うが」

「どっちにしろ、お前からは引き離される」

「罰として、少しの間だろ」

「それでも嫌だ」

 きっぱりと言うソラに、輝血は、きゅ、と口を引き結んだ。
 心がむず痒くなる。

 そんなやり取りをしている間に、罪人は土壇場に据えられた。
 首切り役人が刀を振り上げる。

 その瞬間、周りの空気が僅かに変わった。
 ソラが腰を落とし、差した刀の柄に手をかける。

 びゅっと首切り役人の刀が振り下ろされ、罪人の首が土壇場の前に掘られた溝に落ちた。
 同時に地面が盛り上がり、大きな悪鬼が躍り出た。

「出たっ!」

 役人たちが、ざっと身を引く。
 逆にソラが、白鞘の刀を抜き放って前に出た。

 輝血は土壇場に近付き、どこからか出したほおずきを翳す。
 ぽ、とほおずきが、淡い光を発した。

「ソラ、しくじるなよ」

「おうさ」

 輝血のほおずきに導かれるように、血に濡れた土壇場の罪人の死体から、ゆらりと靄が立ち上がる。
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