Chinese lantern
「やれやれ。刀が白鞘でよかったわい」

 奥の院で刀の手入れをしながら、ソラが言う。
 この刀は輝血の従者となったと同時に、主様から与えられた。
 この社に納められていた刀だ。

 社に納められたものなので、刀匠が打ったときのままの、白木の鞘のまま、鍔もない。
 だがその分軽い。

「でも鍔がなかったら、攻撃を受け止められないじゃないか」

 寝転んで絵草子を読みつつ言った輝血に、ソラは、とんでもない、という顔をしてみせる。

「何言ってんの。悪鬼の攻撃なんざ、俺に受け止められるわけなかろう。昔はともかく、今はすっかりガキになってしまったし」

「んでも……」

 言いかけて、輝血は黙った。
 鬼を滅する直前には、ソラは初めて会ったときの、青年の姿に見える。
 だがそれは気のせいかもしれないのだ。

 ソラは人としての摂理を捻じ曲げてここにいる。
 その代償が魂の逆回しであり、それが元に戻ることなどない。

「何、輝血。俺のことが心配なの」

 不意にソラが、嬉しそうな顔を向ける。

「だってお前がいなくなったら、わっちは毎回魂送りに失敗して、主様に怒られるもん」

「そだねぇ、輝血は悪鬼には敵わないもんねぇ。輝血がお役目を外されて、あっという間に送られてしまったら、俺がここにいる理由がなくなるわ」

 ソラが憮然と言う。
 ふぅ、と輝血は息をついた。

 贄になった輝血は死んだときの姿のまま、今に至る。
 実体はあるようでない。
 ないようである、というべきか。
 ソラの初めのように、完全なる亡者ではないので、物を持つことも可能だ。

 だがその身体は生身ではない。
 死んだ十六の時のまま、老いもしなければ、ソラのように若返ることもない。

 ソラはこのまま行くと、そのうち赤子になってしまうのだろうか。

「何でそこまでして、ここに留まることを選んだのかねぇ」

 人の生を逆回しに生きている(?)ソラは、最後どうなるのかわからない。
 この地に留まるということ自体が人としてはあり得ないのだから、捻じ曲げた輪廻の輪がどうなっているか。

 おそらく来世、というものがなくなったのだと思う。
 ただ輝血に惹かれた、というだけで、そこまでしてしまったことを、ソラは後悔していないのだろうか。
< 7 / 29 >

この作品をシェア

pagetop