Chinese lantern
「そらぁ、そうしないとあっという間に輝血と別れてしまうじゃないか」

 あっさりとソラが言う。

「と言ってもお前、迎えに行ったときに、ちょっと喋っただけじゃないか」

「うん。あのときの輝血は可愛かったなぁ。全然慣れてなくて、一生懸命走って来たと思ったら、俺見てビビッてさぁ。まぁ血まみれだったからしょうがないけど。挙句ほおずき落としてくるし」

「お前の前に迎えに行った奴は、皆おぼろげな煙みたいだったんだよ。魂というのはそういうものと思ってたのに、お前ときたら普通に血まみれで現れるもんだから、そりゃ引くわ」

 しかしそのお陰でソラは主様に認められ(?)、魂送りの従者となれたわけだが。
 『ソラ』という名も、そのときに貰った。
 『空(から)』という意味らしい。

 人は死んだ瞬間に全て忘れるので、当然生前の名も覚えていない。
 これは輝血もソラも同様だ。

「ちょっと喋っただけなのにさ、お前はさっさと従者になることを承諾するし。後のこととか、考えなかったの?」

「後のことって何よ。後のことを考えたからこそ、主様に呪をかけて貰ったんじゃん。あのままだったら俺、早々に送られてたでしょ」

「普通はそうなんだよ。何でその普通の道から外れるなんて選択したのさ」

「送られたら輝血に会えなくなるからだよ」

 当たり前のように言う。

「だから。わっちとなんて、ほんとあの迎えに行った一瞬しか会ってないだろ。何でそれだけで、自分のこれからを左右するようなこと決めちゃうのさ」

「恋に落ちるのに、時間は関係ないね」

 いわゆる一目惚れというやつだ。
 それにしても、二人が会ったのはもう大分昔の話だ。
 すでに人ではないので、時間の流れも人と違う。

 ソラも逆回しとはいえ、その流れはゆっくりだ。
 すでに元の年齢の軽く倍以上の時間は経っていよう。

 しかし一瞬で恋に落ちたわりに、ソラの輝血に対する想いは、この長い間少しも衰えない。

「んでも輝血よりも、随分小さくなってしまったなぁ」

 ソラがため息をつく。
 今や完全に弟だ。

 もっとも蛇神(の使い)と亡者なので、何がどうなるわけでもないのだが。
 ……多分。
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