恋人未満のこじらせ愛
「そんなに毛塚が好きだったか?」

そう言われると──正直わからない。

でも一年以上一緒に過ごしてきた時間は予想よりも重く、私の心にのしかかってくる。


「初めてちゃんと好きになれて…初めてちゃんと付き合った……。
陳腐な言葉だけど…愛してくれた………」

毛塚先輩から私は、愛される喜びも…誰かを愛するということも教えてもらった。
これは本当のことなのだ。
その事を思うと─更に涙がポロポロと溢れてくる。


大村先輩は黙ったまま私の肩を抱いて、タクシーを捕まえる。
そして私をタクシーに押込み、そのまま私は連れて行かれた。
勿論、大村先輩のアパート。


引っ越し準備の段ボールが溢れる部屋で、私達は抱きしめ合う。
そして何度も、何度もキスをした。

「今日は俺が愛するから……だから、全部忘れろ」

甘くとろけるようなキスの後、慣れた手付きで私の服を脱がしていく。
肌を滑らせる大きな手、頭がすっぽりと収まる大きな胸も……『今日が最後なのだ』と。


私達にはもう、会う理由がない。

乾いた土が水を求めるように、ひたすらお互いを求め合う。
触れ合う肌の感触が、どんどんと私の心を満たしてゆく。


でもそれは、今晩だけの夢なのだ。


朝が来ると現実に引き戻される。
いつも通りに、すやすやと眠る寝顔。
もう今日が見納め。


『ありがとう。さようなら』


そう心の中で呟き、部屋を後にした。
< 23 / 170 >

この作品をシェア

pagetop